正しいDX推進がわかる
2021年9月1日に発足したデジタル庁、岸田内閣に引き継がれて活動が活発になってきました。「デジタル社会形成の司令塔として、未来志向のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げる」とうたっています。
官庁がデジタルを進めると、産業界も大きな影響を受けます。役所に提出する書類や承認作業がデジタル化し、いよいよペーパレスの社会が当たり前になります。これを機に、しっかりとしたDX企画で企業価値創出を目指したいと思います。
今回はDX推進で押さえておくべきノウハウやバリューチェーンやデザイン思考について解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?言葉の意味をおさらい
DX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)が広く知れ渡る様になりました。
DXは2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した言葉で、デジタル技術で社会生活を良くしようという論文で使われたのが最初です。
日本では2018年に経済産業省が「DXレポート ~ITシステム 「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」を発行し、日本企業がDXを推進できなかった場合の経済損失を最大で年間12兆円と強い警鐘を鳴らし、話題を呼びました。 2020年末には「DXレポート2(中間取りまとめ)」が公開されました。当レポートではDXの定義として「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」こととしています。
DX以前の産業革命の変遷
私たちの社会は第1次産業革命、第2次産業革命を経て豊かな時代へと変遷しました。
第1次産業革命は18世紀後半にイギリスで起こりました。綿織物工業で織機に飛び杼(とびひ)が導入された後に、水蒸気機関を動力にした力織機(りょくしょっき)を発明し、紡績技術の機械化が進み、作業効率が向上しました。
第2産業革命は19世紀後半に石油を燃料とした内燃機関が実用化され、電気の発達も重なり、重工業の技術革新が進み、その後の大量生産へと移行しました。同時にガソリン自動車も発明されています。
第3次産業革命は20世紀半ばからつい最近まで続くコンピュータやインターネットの登場による情報通信技術(IT)革命の事です。第3次産業革命で多くのIT企業が生まれ、スマートフォーンに代表される便利なWebサービスも活用できる様になりました。
DX = 第4次産業革命
第4次産業革命は2011年にドイツで始まったインダストリー4.0をきっかけにIoT、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、AI技術を基にしたデジタル活用による価値創出です。
最近になって5G技術を使ったソリューションも加わり始めました。「いまこそ知りたいDX戦略」の著者である石角友愛さんによると、アメリカではDXは「第4次産業革命そのもの」を指すためDXという言葉はビジネス現場であまり使われないそうです。DX=第4次産業革命とみなしても間違いないでしょう。
IT化とDXの違い
IT化やIT活用という言葉は第3次産業革命で生まれたITをツールとして用いる事を言っているのに対してDXは第3次産業革命のITの様にツールではなく、「デジタル化での価値創出」そのものです。IT化が「手段」を選ぶことであるのに対して、DXは「目的」となります。
さらに、DXでは業務や顧客体験をデジタル化でしか実現できないコト(形態、状態)にする必要もあります。
バリューチェーンを理解する
DX企画ではバリューチェーンを意識することが重要になってきます。
バリューチェーンは1985年にハーバード・ビジネススクール教授のマイケル・ポーター著書「競争優位の戦略――いかに高業績を持続させるか」で説明した概念です。
企業活動では購買物流、製造、出荷物流、マーケティング、販売、サービスの主活動があります。それを支える支援活動には全般管理(インフラストラクチャー)、人事・労務管理、技術開発、調達があります。
主活動と支援活動の連鎖で価値を生み出す仕組みをバリューチェーンと言います。
DXは第4次産業革命のデジタル技術でバリューチェーンを創造することと定義しても良いでしょう。
DXでは、まず組織内のバリューチェーンを実現します。
- フェーズ1:デジタル利用による業務プロセスの強化
- フェーズ2:デジタルによる業務の置き換え
- フェーズ3:業務とデジタルが適材適所でシームレスに変換
以上により、コスト削減、納期の短縮、生産性向上が実現します。
そして、新ビジネス創出力と顧客体験価値創造力が生まれます。 組織内のバリューチェーンで商品、サービスによって顧客の求めるコトを満たし、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)の向上を実現します。
DX思考の社内徹底
経営者主導の推進
バリューチェーン創出思考の次に必要なのだDX思考の社内徹底です。そのためDX推進は「経営者」がしっかりとその意味を把握し、DX化をコミットし、リーダシップを発揮しなくてはなりません。DXは全社的な意識改革の中で行うものでDX推進部門に丸投げするだけでは成功が難しいからです。
まずは経営者がDXの価値をしっかりと理解し、DX推進者が組織内の協力を得られるような体制づくりをすることが必要となります。
組織は現状を維持したいという気持ちが強く、変革は受け入れ難いものです。経営者が変革に対してしっかりとコミットし、トップダウンによるDX推進をしなくてはなりません。
AIリテラシーを持つ
意識改革の中でも重要なのがAIリテラシーを持つことです。全社員でAIリテラシーが共有されていないと、「DX導入で自動化され、自分の仕事が無くなってしまうのではないか」というDXに懐疑的な意見が社内に広がります。それを避けるためにも、社員とAIの共存についてしっかりとした説明と理解が必要です。
AIと一言で言っても多くの企業のDXで使用されるのは「機械学習」の一部である「教師あり学習」という手法です。「機械学習」とはコンピュータがデータから反復的に学習し、そこに潜むパターンをみつけ出すことですが、「教師あり学習」ではその学習をさせる教師となるのが今まで社内オペレーションのノウハウを積み上げてきた社員です。
データからどのように解を見つけ出すかは社員が知っていて、その考え方をコンピュータにアルゴリズムとして学ばせて自動的に解が導かれる様に仕向けるのが「教師あり学習」であり、AIです。さらに、AIではコンピュータが導いた解を定期的に人が確認して、間違っていたらアルゴリズムに修正を加えていく作業が継続的に必要です。
そのため、AIを活用していくDXでは、AIを管理コントロールする人材が求められ、自動化できるところはAIに任せ、人はより高度な仕事をして会社のバリューチェーンを向上させるという分担分けが必要です。この仕組みを理解するのがAIリテラシーです。
DX思考の社内共有
マーケティングの大家コトラー氏は従来から社内の一機能の見られていたマーケティングが最終的には全社的な顧客を中心としたマーケティング思考にすべきだ主張していました。
同様に全組織、全社員でDX思考を持ち、創出に向けて変革をするのがDX推進です。P.F.ドラッカーは「マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。」という名言を残していますが、今や「DXの理想は、販売を不要にすること」です。Amazon、Uber、Airbnb、Netflix、そして先に紹介したIKEAがそれを実証しています。
つまり、顧客価値の高いCX創出がDXで実現していれば、販売活動をしなくても顧客からサービスを求めてくるのです。社内システムについても同様です。利用者目線で役に立つシステムであれば、利用者の頼りにされます。
DX推進で必要なデザイン思考
次につまずくのが、具体的なDX企画を進める上で、「何に手を付けて良いかわからない」という課題です。業務改善、業務改革に関連する従来のITプロジェクトですと、業務可視化で課題を見つけ出すというプロセスを踏みますが、DXの目的を見つけようとすると思考が制限されてしまいます。
その解決となるのがデザイン思考で、デザイン思考もDX企画では重要なノウハウです。以下がデザイン思考の5つのプロセスです。
①共感(Empathize)
②問題定義(Define)
③創造(Ideate)
④プロトタイプ (Prototype)
⑤テスト (Test)
「DX企画ガイド」でデザイン思考について詳しく説明します。
DX推進のステージ
デザイン思考で発案されたDX候補が挙がったら、次はDX推進です。
DX推進は「基礎ステージ」であるデジタイゼーションから最終的に「デジタル化価値創出ステージ」に順を追って進化させていくのが現実的です。デジタイゼーションとは紙ベースの書類をデータとしてのデジタル情報に変換させる作業(ペーパレス化)を含みアナログ情報をデジタル化する事です。その次がデジタライゼーションです。
「DX企画ガイド」でDX推進のステージについて詳しく説明します。
小さく始めて広げていく
DXの取り組みは、単なる業務の電子化ではなく、いかに「企業が素早く変化し続ける能力」を獲得するかにあります。ITを漫然と使って利便性を享受するだけでなく、使いながらビジネスや自身や組織の業務を見直し、常に改善し続けられるかという観点がポイントとなります。
小さく始めるDX推進として参考となるのは、経済産業省が「DXレポート2 (中間取りまとめ)で提起されている下記の「業務プロセスのデジタル化」です。
OCR製品を用いた紙書類の電子化
• クラウドストレージを用いたペーパレス化
• 営業活動のデジタル化
• 各種SaaSを用いた業務のデジタル化
• RPAを用いた定型業務の自動化
• オンラインバンキングツールの導入
DXというと大きな投資が必要と思われる方も多いのですが、組織単位の業務改善から最小費用で始めるのも一案です。まずは業務の棚卸、可視化をし、業務改善で済むのか、業務改革が必要なのか、当たりをつけます。
いきなりDXで付加価値を創出と言われてもハードルが高すぎる場合には、デジタルの力で小さな業務改善から始めるのがお勧めです。動きながら拡大していくアジャイル的なアプローチはデザイン思考とも言えます。
DX企画ガイドダウンロード
【目次】
- DXの前にバリューチェーンを考える
- IKEAのバリューチェーン
- DX思考の社内徹底
- 理想は組織全体がDX思考を持つこと
- DX推進で必要なデザイン思考
- DX推進のステージ
- プロジェクト憲章
DX支援サービス
弊社、株式会社QualityCubeのDX支援サービスは、顧客の目的に沿ったヒアリング・調査から最適なDX推進をアドバイスします。
QCDバランスを見ながらプロジェクトの要である要求定義をしてベンダー選定まで支援します。お気軽にご相談ください。