当たり前品質とは?│IT初心者のための基本ガイド

はじめに

ソフトウェア品質が重要視される現代において、ユーザーの期待を満たすことはますます重要度が増しています。品質は多くの側面から語られますが、その中でも「当たり前品質」は基本的かつ根本的な要素です。

「当たり前品質」は、ユーザーが製品に期待する最低限の機能や特性を指し、これが欠けるとユーザーに不満や不信感を与えてしまいます。つまり、当たり前品質を確保することは、ソフトウェア開発における基盤であり、どんなに他の品質が優れていても、当たり前品質が不足していれば顧客の満足は望めません。

この記事では、当たり前品質の意味やその重要性、実現方法について詳しく解説します。ソフトウェア開発に関わる方が、品質管理の基本を理解し、堅実な製品開発を行えるようサポートすることを目指します。

当たり前品質とは?

当たり前品質とは、ユーザーが製品に対して当然期待する最低限の品質要素を指します。ソフトウェアにおいては、正常に動作することやバグが少ないこと、セキュリティが確保されていることなどが典型的な例で、ユーザーはこれらの要素を前提として製品を使用するため、提供されていない場合は強い不満を抱きます。

品質と顧客満足を体系化した狩野モデルというものがありますが、狩野モデルでは、当たり前品質は「当たり前要因(Must-be quality)」とされ、ユーザーの要求としては明示されないことが多いものの、満たされないと大きな不満が生じるとされています。例えば、アプリが頻繁にクラッシュしたり、セキュリティ上の脆弱性があるといった問題は、当たり前品質が欠けている状態と言えます。

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当たり前品質の重要性

当たり前品質は、ソフトウェア製品やサービスの基盤を成すものであり、これが欠けると製品全体の評価が大きく下がります。特に、以下の3つの理由から、当たり前品質は極めて重要です。

ユーザーの信頼性確保
当たり前品質は、製品に対するユーザーの信頼を築くために不可欠です。たとえば、日常的に使用する銀行アプリやeコマースサイトが、不安定な状態であったりセキュリティ面で問題があれば、ユーザーはその製品を信頼することができません。安定した動作と基本的なセキュリティの確保は、ユーザーが製品を安心して使用するための第一歩です。

基本的な満足の土台
当たり前品質は、ユーザーが製品を利用する前提となる要素です。魅力的なデザインや革新的な機能があっても、基本的な品質が満たされていなければ、ユーザーはその製品に対して不満を持つことになります。製品が最低限の期待を満たして初めて、ユーザーはその先の価値に目を向けることができるのです。

長期的な成功の鍵
ソフトウェア製品が市場で長期的な成功を収めるためには、当たり前品質を継続的に維持することが必要です。初期のリリースで満たされていたとしても、定期的なアップデートやバグフィックスによって、その品質を保ち続けなければ、やがてユーザーは離れていってしまいます。長期的な成功を目指すには、当たり前品質の管理と維持が不可欠となります。

当たり前品質を実現するための方法

当たり前品質を実現するためには、開発プロセス全体において品質を意識し、堅実なアプローチを取ることが重要です。以下は、そのための具体的な方法です。

品質管理プロセスの確立
まず、ソフトウェア開発における品質管理のプロセスをしっかりと確立することが重要です。ソフトウェアの設計段階からテスト、リリースまで、各フェーズで当たり前品質を確保するためのレビューチェックリストやテストケースを導入します。特に、バグの検出やセキュリティテストを徹底し、リリース前に問題を洗い出すことが重要です。

開発標準への適合
ISO25010やCMMI、IITLなどの国際的な標準やガイドライン、IPAの共通フレーム等に基づき、自社に適した開発標準を策定することは、当たり前品質を確保するうえで非常に重要です。これにより、すべての開発や運用チームが一貫した基準に従い、安定した品質を維持することが可能となります。

自社の開発管理規約の策定
開発標準の導入に加えて、自社独自の開発管理規約を策定することは、当たり前品質の実現においてさらに有効です。この規約は、プロジェクトマネジメント、開発手法、品質保証に関するガイドラインを明確に定め、開発チーム全体が統一された方針に従って開発を進めるための指針となります。

開発標準と規約に基づいたドキュメントの整備
開発管理規約に従ったプロジェクトの進行を円滑にするために、規約に基づいたドキュメントを整備します。標準的な作業手順や品質チェックリストをドキュメント化することで、開発者は規約に従ってプロジェクトを進行しやすくなり、品質のばらつき防止につながります。また規約に適合させるかたちで、各フェーズの成果物をテンプレート化することも有効です。

自動化ツールと継続的なモニタリングの導入
開発管理規約に基づいて、品質チェックやテスト工程を自動化するツールを導入することも、当たり前品質の確保に役立ちます。自動化されたテストや品質モニタリングにより、規約に基づいた基準が常に守られているかをチェックし、問題があれば即座に対応します。

ユーザーフィードバックの活用
リリース後もユーザーからのフィードバックを積極的に収集し、改善に役立てるようにしましょう。バグ報告や機能に対する改善要望などを迅速に取り入れることで、当たり前品質の継続が可能になります。

Colum│開発管理規約策定のPoint

Point1:プロジェクト進行のルールを明文化
規約には、各フェーズのプロセスや責任分担を明確にし、開発者やプロジェクトマネージャーが一貫した手順に従って作業を進められるよう定義します。例えば、コードレビューやバグ修正の優先順位、テストの実施タイミングなど、当たり前品質を確保するために不可欠な項目を取り入れます。

Point2:開発規約の遵守を徹底する文化
規約を策定するだけでなく、チーム全体がその規約を理解し、実践する文化を根付かせることが重要です。定期的な教育やトレーニングを実施し、規約の内容や目的を全員が共有することで、品質のブレを防ぎます。

Point3:規約の継続的な見直しと更新
技術の進化やプロジェクトの特性に合わせて、開発管理規約を定期的に見直し、改善を加えることも必要不可欠です。特にユーザーからのフィードバックや新しい技術が導入された際には、規約を柔軟に調整します。

当たり前品質の事例

このセクションでは、具体的なソフトウェア製品において、当たり前品質がどのように維持されているのか、具体的な事例を紹介します。

スマートフォンアプリの安定性
スマートフォンアプリでは、動作の安定性が当たり前品質の一例です。たとえば、メッセージングアプリが頻繁にクラッシュするようでは、ユーザーは他のアプリに移行してしまいます。動作のスムーズさや、クラッシュしないことが、当たり前品質の代表的な特徴です。

セキュリティを重視するオンラインバンキング
オンラインバンキングアプリでは、セキュリティが当たり前品質として重要視されます。多要素認証や暗号化された通信、定期的なセキュリティアップデートなどがなされていない場合、ユーザーは安心して利用することができません。このように、セキュリティはソフトウェアの当たり前品質に直結します。

魅力的品質とのバランス

ソフトウェアの評価は、当たり前品質と魅力的品質とのバランスのうえに成り立ちます。どちらか一方に偏りすぎると、全体的な製品の評価が上がるどころか、逆に下がる可能性があります。

魅力的品質はユーザーを驚かせ、感動させる要素ですが、当たり前品質が確保しきれていなければ、その効果は全く期待できません。たとえば、見た目や新しい機能が優れていても、動作が不安定であったり、セキュリティが脆弱であれば、ユーザーがその製品を評価することはありません。

したがって、魅力的品質を追求する際にも、まずは当たり前品質を確保し、それを土台にして魅力的な要素を組み込むことがバランスとして重要な要素となります。

まとめ - 当たり前品質への責務

当たり前品質は「当然満たされているべきもの」として、顧客の期待に応えるための最低限の基準を示しています。そのため、これをないがしろにしてはいけません。

一方で、当たり前品質が確保された上で初めて、魅力的品質やその他の価値が際立ちます。開発者としては、どんなに革新的な機能やデザインを導入しても、基本的な品質が欠けていれば、ユーザーの評価が下がってしまう可能性があることを常に意識する必要があります。

当たり前品質をしっかりと維持し、魅力的品質とのバランスを取ることで、ユーザーに長期的な満足を提供し、信頼される製品開発を目指していただければと思います。

最後に、当たり前品質を常に意識し、その維持に努めることは、ソフトウェア開発者にとって避けて通れない責務であると心掛けましょう。しっかりとした基盤があってこそ、製品はユーザーに受け入れられ、愛され続けるのですから。

編集後記

ソフトウェア業界は、まだまだ歴史も浅く、法整備もままならない状況であるため、ソフトウェア品質に関する有効な情報や手段が十分に確保、浸透しているとは言えません。また、各企業における取り組みについても、品質向上や品質改善に対する意識は高いとは言えず、積極的に品質向上に取り組んでいる企業は少数派という印象です。そのような状況を少しでも改善したく、弊社は2017年に起業し、現在に至ります。

“社会のあらゆる製品やサービスの品質へ多角的に分析を行い、多面的に創造することで、当たり前品質の形成や魅力的品質の構築の一助となり、持続可能な品質向上に貢献する”

これは弊社、株式会社QualityCubeの企業理念です。

魅力的品質がどれほど顧客に満足や感動を与えようとも、その製品やサービスが当たり前品質に達していなければ、顧客に受け入れてもらうことはできません。当たり前品質は皆さんが思っている以上に重要なのです。

弊社が、当たり前品質の形成をわざわざ企業理念に謳っている理由はそこにあります。

企業は、まずは当たり前品質の形成から真剣に取り組まなければいけないと思います。そして、それを土台にまで築き上げたうえで、顧客に驚きや感動を与える魅力的品質の構築に向け、更には持続可能な品質向上の実現に向けて、というのが正しい順序だと思います。

弊社は、これからもご縁のあった企業様を全面的にサポートしてまいりますので、どうぞよろしくお願いします。

QualityCubeでは、最上流の企画/要求定義工程から下流のテスト工程まで、プロダクト分析とプロセス分析による現状分析や品質コンサルティング、更にはDXコンサルティングも行っております。
開発製品やサービスの品質向上や品質改善、その他DXに関することでご課題やご検討中のことがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

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