はじめに:ソフトウェア開発におけるValidationの役割
ソフトウェア開発では、ソフトウェアの品質を確保するため開発の過程でさまざまなチェックが行われています。その中でも「Validation(バリデーション)」は、ソフトウェアがユーザーの期待や要件に応えているか、つまり「作ったものが正しいか」を確認するための重要なプロセスです。
例えば、設計図通りに家を建てたとしても、住む人にとって住みやすいかどうかは別問題です。ここで必要なのが「Validation」です。
この記事では、ソフトウェア品質における「Validation」の基礎知識から具体的な実践方法、さらにはその重要性について、初心者にもわかりやすく解説していきます。
Validationとは?
「Validation(バリデーション)」とは、日本語で「妥当性確認」と訳されます。
ソフトウェア開発においては、開発されたソフトウェアがユーザーや顧客の要求や期待に合致しているか、つまり「正しいものを作ったかどうか」を確認するためのプロセスを指します。
ソフトウェア開発の途中でユーザーのニーズが変わることもありますし、最初に設定した要件が不十分だった場合も、最終的な製品が期待に応えられない場合もあります。「Validation」は、これらのリスクを回避し、製品がユーザーにとって有用であることを確認する一連のプロセスなのです。
例えば、あるWebアプリケーションにおけるログイン機能の「Validation」を考えてみましょう。
ユーザーがログインするためには、正しいユーザー名とパスワードを入力する必要があります。
しかし、「ログインできる」というだけでは、ユーザーがこの機能を使って満足するかはわかりません。「Validation」では、ユーザーが期待する操作性やセキュリティレベルを満たしているかを確認するため、一例として次のような要件についての妥当性を確認していきます。
- ログイン画面が直感的で使いやすいか?
- パスワードの入力間違い時に適切なエラーメッセージが表示されるか?
- セキュリティの観点から、十分な暗号化が施されているか?
ValidationとVerificationの違い
ソフトウェアの品質観点には、「Verification(検証)」と「Validation(妥当性確認)」という2つの側面およびプロセスがあります。両者はよく混同されがちですが、実際には異なる目的と役割を持っていますので、ここで確認しておきましょう。
Verification(検証):ソフトウェアが設計書通りに正しく開発されているかを確認するプロセス。
「正しく作ったか」を検証します。
Validation(妥当性確認):開発されたソフトウェアがユーザーや顧客のニーズに合致しているか、期待通りの動作をしているかを確認するプロセス。
「正しいものを作ったか」を確認します。
料理で例えると、「Verification」はレシピ通りに料理ができているかどうかを確認することに相当します。
一方、「Validation」はその料理が美味しく、ゲストに満足してもらえるかどうかを確認することです。
どちらも品質に関する重要なプロセスですが、このようにそれぞれの目的は異なりますので注意しましょう。
なぜValidationが重要なのか?
「Validation」がソフトウェア開発において非常に重要な理由は、そのプロセスを通じて、ソフトウェアが最終的にユーザーにとって価値あるものかどうかを判断できる点にあります。具体的には以下のような利点をもたらします。
1.ユーザー満足度の向上
開発したソフトウェアがユーザーの期待に応えていなければ、どんなに機能が豊富であっても、ユーザーはそのソフトウェアを利用し続けることはありません。「Validation」によって、ユーザーの要求に正確に応えられるかどうかを評価することで、ユーザー満足度を高めることができます。
2.ビジネス価値の向上
ソフトウェアは最早、ビジネスの中心と言っても過言ではありません。よって、ソフトウェア製品やサービスが市場や顧客に受け入れられるかどうかは、ビジネスの成功に直結します。
つまり「Validation」により、ソフトウェアがビジネスの目標に合致しているかを確認し、リスクを最小限に抑えることが成功確率を高めるための秘訣となります。
3.コストの削減
「Validation」を早い段階から適切に実施することで、ソフトウェアの開発後半や運用フェーズに入ってから大規模な修正を行う必要がなくなり、結果的にコスト削減につながります。
もし、リリース後に大規模な修正が発生すると、時間とコストの両方が膨大にかかってしまうことから、「Validation」の早期実施による品質の作り込みは、ソフトウェア開発にとって非常に効果的と言えます。
Validationのプロセス
次に、「Validation」のプロセスについて詳しく説明します。「Validation」は単に「ソフトウェアをテストする」ということではなく、レビューを含んだ計画的かつ組織的に行われる一連の活動です。以下に、「Validation」の典型的なプロセスの流れを記載します。
1. 要件の確認とテスト計画の作成
Validationプロセスは、ソフトウェアの要件がユーザーの期待に合致しているかどうかを確認することから始まります。要件を明確にすることで、「Validation」の基礎が固まります。次に、テスト計画を策定し、どのようにソフトウェアの妥当性を確認するかを定めます。
2. テストケースの作成
テストでは、「Validation」を実施するための手順書として、具体的なシナリオに基づいたシナリオテストを作成します。そのシナリオテストには、例えばユーザーインターフェースの使い勝手を確認するためのテストケースや、ユーザーの期待通りに操作できるかを確認するテストケースなどが考えられます。
3. テストの実行
作成したシナリオテストのケースごとに、ソフトウェアの振る舞いを実際に確認していきます。ここでは、シナリオどおりに操作を行い、その結果がユーザーの期待通りであるかを確認していきます。特にユーザーの視点からの操作性や使い勝手等を意識してテストを進めていきます。
4. 結果の分析とフィードバック
テスト結果を基に、ソフトウェアがユーザーの期待通りに動作しているかどうかを評価します。もし不具合が見つかれば修正を行い、再度テストを実施します。このフィードバックのループを通じて、ソフトウェアの妥当性確保を目指します。
Validationの具体例
ここでは、「Validation」の具体例として、オンラインショッピングサイトの「カート機能」のシナリオを取り上げ、この機能がユーザーにとって使いやすいかどうかを確認する「Validation」のポイントについて触れていきます。
「Validation」のポイントとしては以下のような項目が考えられます。
- 商品をカートに追加する操作が直感的であるか。
- カートに追加した商品が即座に反映されるか。
- カート内の商品を簡単に削除または変更できるか。
- 決済画面にスムーズに移行できるか。
これらの項目は、ユーザーが実際にショッピングを行う際にどのような体験をするかを考慮して行う「Validation」の一部です。
例えば、ユーザーが商品をカートに追加したのに、すぐに反映されない場合、使い勝手が悪いと感じて離脱してしまうかもしれません。
これらの項目を「Validation」によって確認し、ユーザーにとって快適なショッピング体験を提供できるように改修していきます。
Validationの実践方法
「Validation」は、実際のソフトウェア開発の現場でどのように実践されているのでしょうか?
ここでは、いくつかの一般的な方法を紹介したいと思います。
1. ユーザビリティテスト
ユーザビリティテストは、ユーザーがソフトウェアをどのように操作するかを観察し、その使い勝手を評価するテストです。
実際のユーザーがソフトウェアを操作する場面を観察することで、期待通りの操作性や直感的なインターフェースが提供されているかが確認できます。
2. ユーザーインタビュー
ユーザーに直接インタビューを行い、ソフトウェアに対するフィードバックを収集します。
ユーザーをよく観察し、ユーザーがどのようにソフトウェアを使っているか、何が使いやすいと感じているか、またはどの部分が改善の余地があるかを知るため、具体的な質問を投げかけることが重要なポイントとなります。
3. A/Bテスト
A/Bテストは、2つ以上の異なるバージョンのソフトウェア(もしくはその一部)をユーザーに対して同時に提供し、どちらがより効果的かを比較するテストです。例えば、異なるデザインや機能のインターフェースを試し、どちらのバージョンがユーザーにとってより使いやすいかを判断する材料とします。
4. β(ベータ)テスト
β(ベータ)テストは、ソフトウェアの最終バージョンが完成する前に、限られたユーザーに使用してもらい、そのフィードバックを基に改良を行うプロセスです。ベータ版は、まだ完全ではないものの、一般ユーザーに実際の環境でソフトウェアを使用してもらい、その妥当性を評価してもらいます。
Validationを成功させるためのポイント
「Validation」を効果的に行うためには、いくつかの重要なポイントがあります。
これらを抑えることで、ユーザーの期待に応えられるソフトウェアを開発することが可能となります。
1. 早期からValidationを始める
「Validation」は、できる限り早い段階から始めることが重要です。ソフトウェア開発の初期段階でユーザーの要求や期待を確認することが、後の修正や手戻りを減らすことにつながります。
2. ユーザーの視点を重視する
「Validation」では、開発者やプロジェクトチームの視点ではなく、常にユーザー視点で「ユーザーにとって価値があるか」を念頭に置いて行います。
ユーザーの行動や、ユーザーの真のニーズを理解し、それに基づいた評価が行えるようにすることがポイントです。
3. 継続的なフィードバックの収集
「Validation」は一度きりのプロセスではなく、継続的に行うべきものです。なぜなら、ユーザーの要求や市場のニーズは時間とともに変化するため、リリース後もユーザーからのフィードバックを定期的に収集し、常に改善を行うことが重要なポイントとなります。
おまけ
さいごに、「Validation」が国際的にどのように定義されているかを記しておきます。
馴染みのない表現が多くわかりにくいかもしれませんが、ニュアンスだけ押さえておけばOKです。
規格 | 定義 |
IEEE 1012:2012 | それぞれの開発工程の成果物が最終のシステムあるいはコンポーネントに対する利用者のニーズや意図された利用法などの要求事項を満たしているかどうかを決定するプロセス |
ISO 9000:2015 | 客観的証拠を提示することによって、特定の意図された用途又は適用に関する要求事項が満たされていることを確認すること |
バリー・ボーム博士の説明 | 正しい成果物を作成しているか? |
引用・参考元
https://standards.ieee.org/ieee/1012/4021/
IEEE 1012:2012に関する説明(英語)
https://www.ipa.go.jp/archive/publish/qv6pgp00000011f7-att/000064877.pdf
ISO 9000:2015(JIS Q 9000:2015)に関する独立行政法人情報処理推進機構(IPA)発行資料
https://www.nae.edu/312132/BARRY-W-BOEHM-19352022
バリー・ボーム博士に関する記事(英語)
まとめ
「Validation」は、ソフトウェアがユーザーの期待に応え、実際にユーザーにとって価値あるものが提供できているかを確認するためのもっとも重要なプロセスです。
Verificationとは異なり、「Validation」は、単に「仕様通りに作られていること」を確認するのではなく、ユーザーにとって「正しいものを作ったか」が唯一の評価ポイントとなります。
また「Validation」は、ユーザー満足度の向上のほか、ビジネス価値の向上やコストの削減など、多くのメリットをもたらすものであるため、決して疎かにしてはいけません。
IT初心者の方はまず、ユーザーの視点から考えることが「Validation」の基本であるということを理解しておいてください。ソフトウェアがどれだけ複雑であろうとも、最終的には「ユーザーがそのソフトウェアを使って満足できるか」がソフトウェア開発の成功の鍵を握っています。
ソフトウェア品質としては、Verificationももちろん重要ですが、「Validation」がユーザーの要求するソフトウェアの価値を決定づける、というふうに覚えておいてください。
【さらに詳しく知りたい方へ】
「Validation(妥当性確認)」は、「Verification(検証)」と併せて「V&V」として覚えておくと、ソフトウェア開発の全てのフェーズで活用することができるようになります。
既に「Verification」に関する記事は公開中ですので、よろしければこちらの記事もご一読いただければと思います。
現在、「Verification」と「Validation」の両方を網羅した「Verification&Validation」の記事制作を進めております。
この記事も併せてご購読いただくことで、ソフトウェア品質に対する「V&V」が網羅的に理解できるようになりますので、「Verification&Validation」の記事もどうぞご期待ください。
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