はじめに:V字モデル(V-Model)とは何か
ソフトウェア開発には多くのプロセスモデルが存在しますが、その中でも品質管理に重点を置いたモデルの一つにV字モデル(V-Model)があります。
V字モデル(V-Model)は、ソフトウェア開発における段階的なプロセスを、開発フェーズとテストフェーズに分けて、それぞれのフェーズが対応するような構造になっています。
このモデルでは、開発フェーズの各段階におけるテストフェーズが事前に計画されているため、問題が早期に発見され、後戻りのリスクを減らすことができます。
V字モデル(V-Model)の歴史的背景
V字モデル(V-Model)は、1970年代に提唱されたウォーターフォールモデルの改良版として生まれました。ウォーターフォールモデルでは、要件定義からシステムの受入れまで、段階的にプロセスが進む一方で、各テストフェーズが開発段階の各フェーズに対応しきれていないという問題がありました。
このため、開発の初期段階で発生した設計ミスが後になって発覚し、修正コストが膨大になるケースが多発していました。
そこで、V字モデル(V-Model)では、各開発段階に対応するテストフェーズを導入し、設計やコーディングの段階ごとに適切なテストを実施できるようにしました。これにより、不具合が早期に発見され、修正が容易になったのです。
V字モデル(V-Model)の基本概念
V字モデル(V-Model)は、その名の通りV字型になっており、左側が開発フェーズ、右側がテストフェーズでそれぞれが対応する形になっています。
開発が進むにつれて、次第に詳細な設計へと進み、最終的にコーディングが完了します。
それに対して、テストフェーズは単体テストから始まり、結合テスト、システムテスト、そして受入テストへと進みます。
▲V字モデル(V-Model)
V字モデル(V-Model)の特徴は、開発プロセスとテストプロセスが密接に関連している点です。たとえば、要求定義フェーズでは、最終フェーズの受入テストが対応しますので、それぞれのフェーズで該当するテストを想定しながら進めることにより、段階的に品質を確保することが可能です。
V字モデル(V-Model)の特徴
V字モデル(V-Model)では、左側の開発プロセスと右側のテストプロセスが明確に対応していますが、この対応関係により、開発のフェーズごとにどのテストが対応しているかが明確にわかるため、対応するテスト視点で作成したドキュメント等をチェックすることにより、バグや不具合が早期に発見できるといった仕組みになっています。
- 要求定義 ↔ 受入テスト
システムとしてできることや運用面がユーザーの要求を満たしているかの視点からチェックする
- 要件定義 ↔ システムテスト
システムがシステムが要件定義で決めた非機能は要件に合致しているか、要件のシナリオ通りに妥当に振る舞うかの視点からのチェックする
- 基本設計 ↔ 結合テスト
各モジュールが正しく連携しているか、機能が設計通りに動作するかの視点からチェックする
- 詳細設計・コーディング ↔ 単体テスト
各モジュールや関数が正しく動作するかの視点からチェックする
V字モデル(V-Model)≠ウォーターフォール型モデル
ウォーターフォール型モデルとV字モデル(V-Model)は、しばしば混同されることがありますが、厳密にはアプローチが異なります。
ウォーターフォール型モデルは、開発プロセスを段階的に進めるモデルであり、各段階が直線的に進行します。一方、V字モデル(V-Model)は、各開発フェーズにそれに対応するテストフェーズが対称的に配置されたモデルです。
要するに、V字モデル(V-Model)のアプローチは、開発プロセスを示すことよりも、開発プロセスとテストプロセスの対応を示すことに主眼が置かれています。
この考え方が理解できれば、例えばアジャイル開発にV字モデル(V-Model)を導入するといったことも違和感なく理解できるようになります。
V字モデル(V-Model)に組み込まれた品質観点
V字モデル(V-Model)には、検証(Verification)と妥当性確認(Validation)という二つの重要な品質の観点が組み込まれています。
これらは、ソフトウェア開発における品質管理(QC)や品質保証(QA)に大きく関わりますので、ポイントとしてしっかり押さえておきましょう。
検証(Verification):開発されたシステムが設計通りに動作しているかを確認するプロセスです。
これは、システムが設計通りに作られているか、仕様通りに実装されているかを確認する作業で、主にテストの初期段階(単体テスト・結合テスト)で行われます。
妥当性確認(Validation):システムがユーザーの要求を満たしているかを確認するプロセスです。
こちらは、システムが正しく動作していることに加え、それがユーザーの期待やビジネスニーズを満たしているかを確認するために行うもので、システムテストと受入テストが該当します。
まとめ
初期段階のソフトウェア開発においては、ウォーターフォール型モデルで開発プロセスの各フェーズは明確に定義されている一方、対応するテストフェーズが不明確であったため、どのテストフェーズでどのようなテストを行うのかがとても曖昧でした。その結果、重要なバグや問題が十分に発見されないまま次のフェーズに進むことが多々あり、頻繁に手戻りの発生を招いてしまっていました。
そのような状況のなか、この課題を解決するかの如く登場したのがV字モデル(V-Model)でした。それからのソフトウェア開発では、V字モデル(V-Model)によって各開発フェーズに対応するテストフェーズが明示され、適切なタイミングで適切なテストを実施することが可能となり、早期に不具合を発見できるようになりました。そして、それぞれのテストフェーズで有効なテストができるようになり、手戻りが削減し、プロジェクト品質やプロダクト品質の向上へとつながりました。
2005年にV字モデル(V-Model)が登場して以来ずいぶんと月日は経ちましたが、現代のソフトウェア開発においてもプロジェクト品質、およびプロダクト品質を確保するための協力な手段として、今なおV字モデル(V-Model)は重宝され続けています。
【さらに詳しく知りたい方へ】
V字モデル(V-Model)に組み込まれた品質観点のセクションで、二つの重要な品質観点として「検証(Verification)」と「妥当性確認(Validation)」について触れましたが、以下のブログ記事で詳しく解説していますので、この機会にあわせてご一読ください。
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