W字モデルとは?│IT初心者のための基本ガイド

はじめに

ソフトウェア開発において、品質の向上はプロジェクト成功への重要な要素です。 特に、複雑化するシステム開発の現場では、開発とテストをどのようなバランスで進めるかがよく問題として起こります。

本稿で解説するW字モデルは、従来のV字モデルと比べて、開発とテストがより密接に関連している点が大きな特徴となっています。 W字モデルは、テストを開発後まで待つのではなく、開発の各フェーズと並行して進め、開発フェーズごとに品質を確保していくアプローチ方法で、システムやソフトウェアの不備や不具合の早期発見がしやすくなり、手戻りを軽減するといった効果が期待できます。

本記事では、W字モデルの基本的な考え方から実践的な活用方法、さらに従来のV字モデルとの違いや、どのようなプロジェクトに適しているかまで、初心者にもわかりやすく解説します。

W字モデル誕生の背景

ウォーターフォールモデル

ソフトウェア開発の初期段階で発案されたウォーターフォールモデルは、要件定義からテストまで直線的に、段階的詳細化という考え方をベースにして、プロジェクトの成功要因であるQCD(Quality:品質/Cost:費用/Delivery:納期)バランスの確保を目指しました。しかしながら、開発とテストの対応が明示できていなかったため、有効なテストを試行錯誤しなければいけないといったジレンマがありました。
ちなみにウォーターフォールモデルは非常によくできた手法で、あらゆる開発モデルのベースとなっています。

▲図1:ウォーターフォールモデル

V字モデル

その後、ウォーターフォールモデルの品質問題を解決するようにV字モデル(V-model)と呼ばれる開発モデルが登場しました。V字モデルは、例えば、要件定義に対してはシステムテスト、基本設計には結合テストというように、フェーズごとに対応するテストプロセスが組み込まれた点が画期的で、プロジェクトの品質確保に向けて有効なV&V(Verification&Validation:検証と妥当性確認)といった概念もこの時に生まれました。

▲図2:V字モデル

W字モデル

W字モデルは、V字モデルの進化形として、品質確保をより強固なものにするために考案された開発モデルです。従来のV字モデルでは、開発に対応するテストが示されたのみでしたが、W字モデルでは開発フェーズの段階からテスト視点を当て、開発とテストの並行進行が採り入れられました。

▲図3:W字モデル

W字モデルの基本概念

W字モデルは、ソフトウェア開発の各フェーズを明確に定義し、開発とテスト活動が並行して進行することをもっとも重視した開発モデルです。このモデルは、開発者とテスターが互いに協力し合い、ユーザーの高いニーズを満たすことにより、高品質な製品やサービスを提供するためのV字モデルをより発展させたフレームワークです。

W字モデルの特徴

W字モデルの特徴としては、テストを開発と並行して進めるという点と、テストを早期から実施するといった点が挙げられます。V字モデルは開発完了後にテストを行いますが、W字モデルでは、各フェーズの進行にあわせて並行してテストを行います。(実際のテスト実施は設計完了後)この対応により、テストのタイミングが早くなり、また頻繁に行われることで、開発段階での品質の作り込みがより強固なものとなります。ちなみ、W字モデルの「W」の意味は、テストと開発が交互に繰り返される様がW字の形に見えるところからきています。

Colum:W字モデルとV字モデルの比較
W字モデルとV字モデルは、ソフトウェア開発において異なるアプローチを取りますので、両者の特徴や違いについて比較できるよう表にします。

W字モデルV字モデル
目的Test Firstのアプローチを示す開発とテストの対応関係を示す
フェーズの進行方法開発とテストが並行して進行各フェーズが順番に進行
テストのアプローチ開発の初期段階からテストを重視開発の実装後の後の段階で実施
▲表1:W字モデルとV字モデルの違い

W字モデルのフェーズ

さて、このセクションではW字モデルのフェーズについてみていきます。W字モデルとV字モデルの違いの決め手は上流工程にありますので、開発フェーズについてのみ詳細に解説します。

要件定義フェーズ

要件定義フェーズは、ソフトウェア開発において最も重要な開発段階になりますが、W字モデルでは、この要件定義の段階で、全体テスト計画の立案、システムテスト計画書・設計書・テストケースの作成、受入基準の明確化を行います。

  • 全体テスト計画の立案
    要件定義フェーズで全体テスト計画を立案します。具体的には、プロジェクト計画に記載した最終的な品質目標の達成に向けて、どのテストフェーズでどのようなテストを行うのかを決め、各テストフェーズのスケジューリングを行います。これにより、開発中の品質チェックポイントが早期に定まります。
  • システムテスト計画書・設計書・テストケース作成
    全体テスト計画書が作成した後、この要件定義フェーズに対応するシステムテストの計画を詳細化し、要件定義書をインプットにシステムテストの設計からテストケースの作成まで行います。これにより、要件定義書自体にテスト視点があたり、テスト不可能による要件の矛盾や、すべきテストの要件が見当たらないことによる要件の抜け漏れ等の発見へとつながり、その結果、要件定義書の品質が向上します。
  • 受け入れ基準の明確化
    この要件定義の段階で、ソフトウェアの受入基準までを決定します。顧客の要求が満たされるかどうかを判断するためのテストケースも、この段階で検討しておきます。

基本設計フェーズ

基本設計フェーズは、要件定義で定めた内容に基づき、具体的な構造を設計する段階ですが、W字モデルにおいては、この基本設計の段階で、結合テスト計画書・設計書、そしてテストケース作成までを行います。

  • 結合テスト計画書・設計書・テストケース作成
    この基本設計フェーズに対応する結合テストの計画を、全体テスト計画の記載内容から詳細化し、基本設計書をインプットとして結合テストの設計からテストケースの作成までを行います。これにより、基本設計書自体にテスト視点があたり、テスト不可能による機能間の矛盾や、すべきテストの機能が見当たらないことによる機能の抜け漏れ等の発見へとつながり、その結果、基本設計書の品質が向上します。

詳細設計フェーズ

詳細設計フェーズは、システム設計で定めた全体の構造をさらに詳細に定義するフェーズですが、W字モデルにおいては、この詳細設計の段階で、単体テスト計画書とテストケースの作成を行います。

  • 単体テスト計画書・テストケース作成
    詳細設計フェーズに対応する単体テストの計画を、全体テスト計画の記載内容から詳細化し、詳細設計書をインプットに単位テストのテストケースを作成します。これにより、詳細設計書自体にテスト視点があたり、ロジックやパラメータの矛盾等の発見へとつながり、その結果、詳細設計書の品質が向上します。

このように、W字モデルでは開発フェーズで開発とテストが並行的に品質を確保しながら進みます。具体的な記載を試みましたが、W字モデルのイメージは沸きましたか?

W字モデルに向いているプロジェクト、不向きなプロジェクト

W字モデルの特徴から、実際のプロジェクトではW字モデルの導入に対する向き不向きが存在します。このセクションでは、それぞれ例を挙げながら、W字モデルに向いているプロジェクト特性と不向きなプロジェクト特性をそれぞれ解説します。

W字モデルに向いているプロジェクト

まずは、W字モデルに向いているプロジェクト特性から解説します。

  • 大規模システム開発
    大規模なシステム開発では、要件が複雑で、多数の機能が組み合わさるため、W字モデルによる開発とテストの並行進行が非常に有効になります。
    例:金融システムやエンタープライズ向けのアプリケーションなど、機能が多岐にわたるプロジェクトなど
  • 高い品質が求められるプロジェクト
    W字モデルは、高い品質が求められるプロジェクトに有効です。特に、ミッションクリティカルなシステムや、規制の厳しい業界でのプロジェクトにおいて、その効果が発揮されます。
    例:医療機器のソフトウェア開発や、安全性が求められる制御システムの開発など
  • 組織成熟度や経験値の高いチームで行うプロジェクト
    W字モデルでは、開発とテストを並行進行することから、開発チームとテストチームとのコミュニケーションがとても重要になります。そのため、組織成熟度や経験値が高く、チームとして統制のとれた中で行えるプロジェクトへの導入は理想的と言えます。
  • まとめ
    W字モデルは、特に大規模で複雑なシステム開発や、高品質が求められるプロジェクトにおいてその効果を発揮します。また、経験豊富なチームや適切なプロジェクト管理が必要となるため、リソースの配置も重要な要素です。

W字モデルが不向きなプロジェクト

一方で、W字モデルには不向きなプロジェクトも存在します。

  • 小規模プロジェクト
    小規模なプロジェクトでは、テストの準備や実施にかかる工数が、プロジェクトの規模に対して過剰となり、リソースを無駄に消耗する可能性があります。
    例:機能追加による小規模な改修案件やWebサイトの開発など
  • 短期間のプロジェクト
    短期間での納品が求められるプロジェクトにおいては、W字モデルのテストプロセスが遅延を招く要因となることがあります。迅速な開発が優先される場合、よりシンプルな開発手法を選択することが望ましいです。
    例:キャンペーンサイトやプロモーション用の一時的なアプリケーションなど
  • リソースが限られているプロジェクト
    W字モデルは、テストに多くのリソースを必要とするため、限られたリソースの中で実施することが難しいプロジェクトには不向きです。十分な人員や予算がない場合、W字モデルの導入は難しいでしょう。
    例:スタートアップ企業や新規プロジェクトで予算が厳しい場合など
  • 仕様変更の多いプロジェクト
    仕様や設計の変更に対して、より上流に遡って仕様書や設計書を手直しする必要があるのはV字モデルでも同様ですが、W字モデルの場合は、その変更した開発フェーズに対応するテスト成果物の整合性までを保つ必要があるため、変更に対応する修正工数が過剰になる恐れがあります。よって、顧客からの仕様変更が頻繁に発生するプロジェクトでは、W字モデルは向いていないと言えます。
  • まとめ
    W字モデルは、その特性から小規模なプロジェクト、短期間での納品が求められるプロジェクト、リソースが限られているプロジェクト、頻度高く変更が求められる環境には不適正です。これらの要素を考慮し、W字モデルを導入するかどうかを慎重に判断することが重要です。

Colum:W字モデルとテスト駆動開発(TDD=Test-First)

テスト駆動開発(TDD=Test-First)は、ソフトウェア開発の手法の一つであり、テストケースを先に書いてからコードを書くアプローチです。W字モデルとテスト駆動開発(TDD=Test-First)は、共通して品質を重視したアプローチですが、W字モデルは全体のプロセスにフォーカスしているのに対し、テスト駆動開発(TDD=Test-First)は個々の機能に特化しています。このことから、両者をうまく組み合わせることで、より高い品質のソフトウェアの提供が可能になります。

W字モデルの概念には、テスト駆動開発(Test-First)の考え方が内包されているのですね。

W字モデルとTest-Firstアプローチ

先のColumで触れたとおり、W字モデルの概念にはテスト駆動開発(Test-First)の考え方が内包されています。では実際に、Test-Firstの考え方がW字モデルにどのようなに影響しているのかを、ここまでの復習の意味合いも込めて考察します。

品質の向上

Test-Firstを実施することで、最初からテストを意識した設計や実装が行われ、設計書やコードの品質向上に寄与している。

要求の明確化

Test-Firstのアプローチにより、要件定義でどのような業務が必要か(または不要か)、どのような機能を実装すべきか(または実装すべきでないか)が明確になる。また、Test-Firstを実施することで、要件定義の段階で要件の不備や矛盾、過不足に気づくことができる。

迅速なフィードバック

Test-Firstにより、開発者は設計や実装を行いながらテストも同時並行で行っているのと同じ状況が作れるため、問題を早期に発見し、その問題を早期に修正することができる。

チームの協力強化

Test-Firstによるアプローチで、開発者とテスターとの連携が必然的に強化される。この協力により、W字モデルでの各フェーズにおける情報共有やフィードバックが促進され、よりよい成果物が生まれる。

W字モデルの成否を分けるポイントとは?

W字モデルを解説するセクションはこれで最後になりますが、まとめとしてW字モデルを導入したプロジェクトの成功要因と失敗要因を表にしましたので、W字モデルの成否を分けるポイントをイメージしながらご覧ください。

W字モデル導入による結果主な要因
プロジェクトが成功したとき・早期からテストを確実に実施した
・要件定義で全ての要件を明確にできた
・チーム間のコミュニケーションが良好だった
プロジェクトが失敗したとき・納期に間に合わないためテストを軽視した
・要件定義で要件が不明確なまま次フェーズに進めた
・チーム間の協力が不足していた

さらに詳しい情報を知りたい方へ

V字モデルについてもより詳しく知りたい!と思われた方は、以下のブログも公開しておりますので、この機会にあわせてご一読ください。

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さいごに

本稿では、W字モデルの基本的な考え方から実践的な活用方法、さらに従来のV字モデルとの違いや、どのようなプロジェクトに適しているかまで、初心者にもわかりやすい内容を意識して解説してきました。

W字モデルは、V字モデルの進化形として更に品質を重視した開発モデルで、プロジェクト特性を選ぶものの、W字モデルの導入により更に品質のよい製品・サービスの開発が期待できます。

W字モデルをまだ導入されていない企業様は、今後のソフトウェア開発において、プロジェクトの特性を考慮したうえでW字モデルの導入も検討してみてください。そして、W字モデルの導入・活用により、更に高品質な製品・サービスの提供につなげていってください。

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